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ヤクザと家族 - 貧困と反社会的勢力の先にあるもの

Netflixでヤクザと家族が配信されているので見ました。生活柄なかなか映画館に行けないので、こういう新作(もはや準新作なのかな?)を配信してもらえるとすっごくありがたいですね…。以下、ネタバレありきの感想です。

 

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・描かれる貧困、それでも生きていかねばならないしんどさ

はっきりとした舞台は明言されていませんが、(撮影は沼津だったそうですね)工業地帯〜港町の狭間、石油コンビナートが印象的なモチーフとして描かれている最初のシーンで、あぁこれはそういう層を描くんだな、と思いました。行きつけの店が韓国系の「オモニ」って名前だったり、所謂労働者層〜貧困層、移民なんかが多い街なんだなぁと。わたしも出身はそういうところなのでなんとなくの感覚で身についているんですけど、やっぱり反社(ヤクザ)と貧困って切っても切れない関係で、選択肢のない中で生きていこうと思ったら「関わらざるを得ないし、ならざるを得ない場合もある」んだなぁと思いました。別にそういう生き方を選択しなくても生きていけるならいいんですよね…。

 

本作のえぐいところは、そういう前提ありきで生きづらくなっていくひとたちを抉り出してるところだなと。1999〜2005年くらいまではね、景気が悪いとかいいながらもまだ良かったんですよね。クリーンな世の中を作る工程で炙り出されていくというか、古いものはどんどん淘汰されていく描写がすごかったですね。柴咲組は「淘汰された」反社会的勢力だったわけですが、家族愛・義理人情みたいなふんわりラッピングで生きていけるほど世の中甘くなくなっちゃった、みたいな。

 

わたし個人の意見ですが、創作モチーフとしてのヤクザってすっごいイマジナリーというか、なんか浪漫みたいなの詰め込んでくること多くないですか?本作も〜05年までの描写はそんな感じで、なんかいい感じにラッピングされてるけど結局は反社やん…と突っ込みながら見ていました。(特に由香のシーン。身寄りがいない、という一言だけであんな惹かれ合うものなんでしょうか…顔面が綾野剛だったとしても…。余談ですが「ヤクザとヤってしまった…」みたいな描写があったらもうちょっと感情移入できたかも。まぁ歴代の任侠モノって女の人が海よりも心が広く肝が据わっていることが多く、あんまそういうのない気がします) ただ2019年からの描写は凄かった…。負の連鎖を断ち切るために自ら加藤を殺しにいく山本、なんだかんだ優しいんですよね。彼はずっと「自分のため」じゃなくて、「誰かのため」に返り血を浴び続けている…。最後は自分の父親と同じように海に落ちて人生を断ちましたが、刺してきた相手が細野だったのはある意味救いでもあったのだなと思いました。

 

・海に始まって海に終わる連鎖

冒頭ヤクザからクスリを奪って海に撒くシーン、あれは父親への餞だなぁと思ったんですけど、最後の海のシーンは娘からの花束で良かったなと思いました。この映画、貧困・反社の連鎖みたいなのを書いてるのがえぐいポイントだと感じたのですが、家族としての連鎖は書きつつ、「ヤクザの子はヤクザ」のような連鎖は断ち切ろうとしていたのがよかったですね。きっと翼が加藤に復讐していたら彼も半グレから反社に確実になっていたと思うんですよね。どっちにも転ぶ可能性がある中で最後山本の娘と出会えたのはプラスの未来に繋がるんだろうな、と…。インタビューでも「次世代に繋げることを伝えていければ」というメッセージをちらほら見ていたのですが、単純な家族愛みたいなので終わらせなかったのがよかったなぁと思いました。

 

ひとつだけ不満というかよくわからなかったのは、ラストの刺されたシーン、なぜ山本一人で海辺に佇んでぼーっとする暇があったんだろな?ってことです。(警察来てなかったっけ?)小説が出てるらしいから読んだら補完されるのかなぁ。

 

余談ですが、私の好きなエッセイストさんが綾野剛のことを「剛にゃん」と読んでいて、ずっと綾野剛を見るたびに「剛にゃん…」と思っていたのですが、ヤクザと家族の綾野剛が辛いシーンを見るたびに「でも剛にゃんだから…」と自分を慰めていました。ちなみに恋はdeepに!と連続して後半を見たのですが、剛にゃんの演技の振れ幅というか高低差がすごくてなぜかこっちがぐったりしました。いやぐったりしたいのは役者さんだよな、と思いつつ…笑

 

藤井道人監督、ほぼ同世代なので新聞記者も見てみようかなぁと思いました。丁寧にヒリヒリと辛い現実を描く映画、よかったです。