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すずめの戸締まり感想〜Life Goes on, but it can be sweet

 『すずめの戸締まり』をようやく鑑賞してきました。そこまで新海作品に思い入れなく、公開されるんだフーン…くらいのノリだったんですけど、TLのフォロワーさんたちがどんどん陥落しており美味しい男女センサーが反応したということと、「ベイビークラブシアター」といって子連れでも映画が見れるサービスが再開した&上映作品がドンピシャでそれだったということもあり、もうこりゃ見に行くっしょ!と足を運びました。

※余談ですがトーホーシネマズさんのベイビークラブシアターはとても良いサービスだと思うので今後も継続してほしい…!2019年はコロナ前ということもあり、アナ雪2とかスターウォーズep.9など結構色々見に行きました。前サービスはママズクラブシアターという名前だったのですが、3年ぶりに使ったら男性育休の取得も増えているからかアカチャン連れのパパも結構多くて感動しました。名称変更したのも納得(?)

 

以下ネタバレありの感想文です。

 

・これはハートじゃなくて理屈で見る新海誠

 新海作品は「君の名は。」と「天気の子」しか履修してないニワカなのですが、割と主人公含む登場人物の行動原理が曖昧…というか、「世界が破滅しようとも君が好きだから僕はこうする」みたいな、エーーッその選択するッ…?!って動揺するところにとりあえず理屈じゃねえんだ心で見ろ!!!って映像美と共にぶち込まれるイメージで、いわゆるそういう作家性なのかなと個人的には思っています。

「すずめの戸締り」については割とハートの部分よりも理屈が勝っているな〜と思っていて、主人公の行動原理もよくわかるしストーリーの流れも納得感があった。たとえば宮崎〜愛媛〜神戸〜東京〜東北(岩手かな?)の旅程も、西側の人間なのでああ〜そっからそういくならフェリー・車・新幹線やわな〜と思ったし、今の時代スマートフォンひとつあれば大体なんでもできるもんね…と思った。でも多分、「君の名は。」が公開された2016年だったら電子マネーがそこまで普及されてないから、これは今のご時世だから作れた映画なのかもなと思ったり。田舎の女子高生(未成年)にも格差なく機動力を与えるスマートフォン、すごい。

(一方でこれは余談なのですが、親としての目線で考えると、子にスマートフォンを安易に持たせるの怖ェ〜!と思った)

 理屈で見る、の部分で言うと、今回の登場人物の造形がファンタジーでもあり一本筋が通っているなぁと思うところが多くて、余白を残しながら受け手に想像させる厚みみたいなのを感じました。すずめちゃんは後述しますが、草太さんは寝起きの悪さとか二万円貸したことを忘れてたりとかするのを見てると結構生活力なさそうというか、ローソンの店員さんのリアクションなどから推察するに割と世話してもらうタイプの人なんだろうな〜とか、環さんが地方の漁業組合?が何かで40代にして総務とはいえ部長職なのはかなり仕事できるタイプで、男社会でもパリッと生きてきた人なんだろうな〜と思ったし、芹澤はシルバーアクセとスカルってちょっとダサ…否、個性的なファッションとボロめの車保有してるのから考えて都内じゃなくてちょっと田舎、もしくは地方の出なのかな〜とか。バリバリの都内育ち立教男子だったらあの仕上がりにはならなさそうだし草太と仲良くなったのもなんかストーリーが見えるなって…(偏見オブ偏見) あとなんとなく気質的におばあちゃん子な気がする。(ちなみに立教に教育学部ってない…よね??)一回見ただけで関連情報なんも追ってないので全部想像なんですけど、まぁ当たりハズレはあろうともこういう人なのかなって想像させる余地が多いのが良かったです。あとルミさんが愛媛に地元があって神戸に根付いてるの結構納得感あるというか、割と神戸って四国から出てきて根付いた人結構いるイメージなんですよね。(私の狭い世界での観測なので統計とか見てないのでアレなんですが)ちなみに廃墟になった遊園地で真っ先に思い出したのは昔ポートピアランドという海の埋立地にあった遊園地で、(作中では山の立地だったんですけど)ジェットコースターとか乗ったな〜、とぼんやり思っていました。観覧車のシーン美しくて良かったですね。

 

・「すずめ」の手当について

 主人公のすずめちゃんが東京で戸締まりに失敗してボロボロになった後に自分を手当するシーンがすごく好きです。一番最初に草太さんと出会った後に怪我をしている彼を手当てしながら、慣れてるねって言われた時に母親が看護師だったから、って言うシーンがあると思うんですけど、彼女は他人にも自分にもきちんと手当できる人で、傷をしっかり見て消毒してガーゼを貼り包帯を巻ける。フィジカルな面では出来ているはずなのに、被災した後の心の傷にはずっと蓋をしてきたわけで、それにきちんと向き合うぞという覚悟を感じるシーンでした。一方で草太さんは自分の傷を蔑ろにしがち…というか、芹澤の言葉を借りると自分を大切にしない人だと思うんだけど、すずめがそこに踏み込んで救い出すというのもいいなーと。つまり冒頭で手当しているシーンでもうこの二人はそうなることが必然だったんですよね…。新海作品は自己犠牲かつ献身的な女子が主人公になりがちなイメージなんですけど、すずめちゃんは手当=ケアできる人ながらそういうところがなかったのが個人的には好ましかったです。単なるケアする女性として描かれてなかった。

 

・でも人生は続くし、その人生は輝かしくもなるという作品メッセージ

 この作品ってすずめが小すずめに常世で伝えた言葉がメインテーマというか作品メッセージだと思うんですけど、これがすごく良かったです。震災を扱った作品って本当にたくさんあって、その前後の悲劇やそこで受けたトラウマにどう向き合っていくか、みたいなのがメインテーマなことが多いと思うんですけど、なんというかその一部分だけではなくて、震災が終わった後も人生って続くよなぁと常々思っていて。私自身も、程度は軽いながらすずめと同じくらいの時に阪神淡路大震災で被災しているのだけれど、地震当日や被災直後のこと以上に、その後もずっと続く生活に影響があったなと感じています。なのでその「ずっと続く人生」にどう向き合うか、という一つのアンサーが2021年度前期朝ドラのおかえりモネだと思っているんですけど(唐突にぶち込まれる推しドラマ)本作もその一つだったなぁと思います。生きている限り人生は続くし子どもは大きくなる。愛されて愛して光の中で生きていける未来もある、というメッセージが好きだな、と思いました。

※この感想ブログのタイトルを決める時に、それってOn the Sunny side of the Street やん…稔さぁん!!(2021年度後期朝ドラ・カムカムエヴリバディ)となってしまったのでit can be so sweetをつけました。るいちゃんも出てたしね(?)

 エンドロールが終わって、良かったなぁ〜と余韻を噛み締めつつ、劇場を出てすぐにすずめの戸締まりのポスターが貼ってあったのでぼんやり見てたんですけど、ポスターのあおりに「いってきます」って書いてるんですよね。映画の最後の台詞が「おかえりなさい」だったので、ここに繋がってたんか…!と思うと同時に、あの日いってきますって言ったけどおかえりなさいって言われなかった人も沢山いたわけで、(最後の女性の声、すずめちゃんのお母さんですよね?) 「すずめの戸締まり」ってタイトルが素晴らしいなと。すずめって漢字で書いたら鈴芽なんですけど、作品タイトルであえて平仮名のすずめにして鳥の雀を彷彿とさせるのは、日本全国どこにでも普遍的にいる人の象徴でもあったのかなと。すずめちゃんみたいな人ってきっと沢山いて、自分の傷に向き合ったり蓋したりしながら人生が続いているんだなと思うとグッときました。

(これは深読みしすぎなのでカッコ書きにしますが、お母さんの名前が渡り鳥の「つばめ」だったのは既に常世に渡ってしまったのも表していて、おばさんの「環」は巡る意味を象徴していて、死ぬのは怖くないし常世に行ってくる!って飛び込んだすずめちゃんと現世を繋ぐ存在でもあったのかな、と思います)

 

その他雑感諸々↓

・俳優陣の声が悉く良かった。個人的MVPは完璧に神戸弁を再現している伊藤沙莉asルミさん…!!深津絵里さんは深津絵里さんだということを全く感じなかったし松村北斗さんもエッあれ稔さんやったんか!!となりました。原菜乃華ちゃんは声までキュートでご本人が見えた。神木くんはズルいね?笑 なんとなくこんぱじの彼を思い出しました

・ちかちゃん家で食べてたご飯がめっちゃくちゃ美味しそうですずめちゃんの心理描写的に絶対美味しく見せないといけない場面で気合い入ってんな〜!と思いました

・ドラマばっか見てる人間なのでどうしてもアニメらしいアニメキャラをどう捉えて良いか分からず、ダイジンについては何も書かなかったのですが、ただただ可愛かったね…。一つ言えるとしたら、重石としてずっと働いてきたのに、きっと古来は敬われていただろうに、今は存在すら忘れ去られていたという孤独が彼(?)にもあったのかなと。だとしたらあのエンドのあとに毎年ダイジンに祈りを捧げていてほしいですね…。

 

※以下小説版を読んだ上での追記感想

 そもそもなんですけど6日間の話だったんですね?!?!もっと短いかと思っていた 天地創造って…コトッ…?(天地創造は休みを入れて七日間です)

   上記ブログ感想で「草太はお金を貸したことを忘れていた」と記載したのですが、小説版を読むと忘れてなかったことがわかりました。笑 (映画ではあのセリフありましたっけ…?どうだったかな…?)

    行きの車の中で芹澤に話をする時はすずめのことをきちんと姪という環さんだけど、帰りの道中では「娘がすみませんでした、と手土産を渡した」って書いててほっこりした あと環さんとすずめ24歳差なんですね 次の十二年後に自分を引き取った時の環さんと同じ歳になって環さんの覚悟とかっこよさをすずめがもう一度感じる時がくるといいですね…

   自分の傷を手当てするシーン、改めて読み返すと儀式の前のお清めの意味合いが強いなぁと 制服はある意味神服でもあるんですね(宮崎の後ろ戸を開ける時と同じ格好よね) 岩戸→天岩戸から苗字取ってるらしいのですが宮崎にそういうゆかりの神社があるらしくへぇ〜!!となった 閉じ師は祈りの仕事→裏天皇的な意味合いがあります、って監督が言ってたそうなのですが、天照大神(イコール天皇の祖先)の逸話と併せて考えれば草太さんが常世から出てこれないのもなるほどな感があるよね
 すずめが実家に帰るシーンで、「お母さんがいた時、甘いおやつを作って待ってくれていた」っていうニュアンスの一文があるんですけど、だからすずめ甘党なんや…(フェリーでもドライブ中のSAでも甘いパン買ってますよね)って思って胸がギュッとなった 髪の毛をなんとなく切らないのも含めて4歳が背負っていい業じゃなさすぎるのよ…そしてお母さんは享年34歳だったのか。辛すぎる…
 芹澤のあの車「カブキの先輩にもらった」ってことから、歌舞伎町でバイトしてんの…?となった 学校の先生になりたい目的意識とやってることがすれ違ってますね 笑