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映画「ラストマイル」感想 〜舟渡エレナは羊急便の夢を見るか〜

映画「ラストマイル」を見てきました!アンナチュラルから6年……6年?!情報公開からずっと楽しみにしていた続編もといシェアードユニバースということで、もはや上映直前は緊張すらしていました。

 

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この6年でライフスタイルはぐっと変わり、アンナチュラルを熱心に見ていた頃とはずいぶん変わりました。毎週金曜の放送を心待ちにして、見終わった後寝落ちするまでTwitterで感想会してたなぁ……。笑

初日のレイトを確保して見に行ったのですが、まあまあ広い箱ながらほぼ満席でした。気合い入れてUDITシャツ着て行ったけど誰も着ていなかった(笑)初回とかだったら違ったかなぁ。

 

以下、ネタバレしかない感想です↓

 

・舟渡エレナ、予告からずっと「この女はアメリカにルーツがある……」って信じていたので中盤のどんでん返し(?)のシーンでほらなっ!みたいな気持ちになった。冒頭の「時差です」のシーンも何故か私は「アメリカから来たもんね😀」と信じて止まなかった。(……)予告から「私のことはエレナで!」で孔を下の名前で呼ぶこと、和製カタカナ英語のアクセントがちゃんと母語のアクセントのことなどからそう思っていたのですげー納得感がありました。でも真冬のワシントンD.C.であのファッションはすごい。せめて手袋はしよう。

・エレナはすごくマテリアリスティックな女で良かった。たぶんあの愛用してるカバンバーキンモチーフですよね。装飾品、特に指輪を山盛りにして、デリファスでほしいものは「全部」と言い切る。常に本国の株価を気にしていて(自社株持ってんのかな……って思った) 仕事熱心。一方で眠れなくなって薬を飲みながら働いている(いた?)というところもある。米国では割とメンタルヘルスってカジュアルなことで、大体かかりつけのメンタルクリニックがあって薬飲んでることも割と「あるある」なので、すげー解像度高い……ってなりました。たぶんディーン藤岡もなにかしら罹ってると思う。

そんなエレナが着任してすぐ「網とか貼らないの?」って言ったのはすごく皮肉が効いていると思いました。5年経ってもなかったことのように安全防止策を取っていないこと。あとは「セーフティネット」という言葉も含まれるのではないかな。予防がまるでない。

・冒頭のモノレール〜タクシー出勤までのシーンでこの映画は見えない階層をきちんと可視化してくる……と感じました。あんなに大きな物流倉庫で働くのに、ピンヒールでタクシー出勤するエレナと並走する送迎バス。パスも「ブルーパス」「ホワイトパス」ってはっきり言っている。物流の世界はどうしても労働集約的な部分があってそこをきちんと描いていることが良かった。作中、エレナはスニーカーでどんどんラフな格好になって、最終的には物流センターを飛び出して荷受やラストワンマイルを運ぶドライバーの元に行くのが本当によかった。あの親子のもとに直接必要なものを運んだエレナの笑顔がすごく良かったし、私たちは階層や分断を飛び越えられるというメッセージを感じた。

・ミステリーとしてのどんでん返しもすごく良かった!もしかしてエレナって主人公だけど「信頼できない語り手なのでは」と思わせる演出が上手い。特にいいなーと思ったのは倉庫のコントロールセンターで孔がエレナを疑って詰めるシーン。それまで光が当たっていたエレナの顔に影が差すんですよね。その時の満島ひかりの表情もすごいんだわ……。

・もう一つ演出が上手いと思ったのはディーン藤岡(役名ではなくディーンが先に来てしまう……)とエレナのジムのシーン。エレナがストライキについて話しかける時にランニングマシーンを上手く止められないディーン藤岡は、「止められないし止め方がわからない人」という演出だなと思った。ディーン演じる上司、全体を通じて、ああいう人間外資系日本支社にいるいるぅ〜!!って笑ってしまった。でもちょっと脇が甘すぎるよ、部下のプロフィールチェックしてなかったん?DBなかったら絶対本社から来てるって察して??ってなりました(コラ)

・シングルマザーのご家庭の部屋番号が404でちょっとニコッとしたよね。あと爆弾の報道してる時に「週刊ジャーナルです」って記者さんの声が聞こえたり。白井くんがバイク便で届けてくれたり、こういうシリーズのファンたちが喜ぶ小ネタがあるのが嬉しかった。

・ヤマサキって濁らなかったな、って鋭い毛利さんめっちゃかっこよかったですね。毛利忠治ファンが10000人増えそう……。向島さんとの時はちょっとリラックスしてる感じがあるのも良かった。刈谷さん毛利さんコンビ、とにかく足が長くてタッパがあって良かったです。スタイルいいなーってなった。

・本作で一番救いだなと思ったのは羊急便の「部長職以上もドライバーとして現場に入るってさ!」ですね。羊急便良い会社じゃん……。羊急便周りの描写はアンナチュラルの「幸せのはちみつケーキ」回を思い出したなぁ。私はアンナチュラルのオタクなのでついアンナチュラルの系譜を感じてしまう。羊急便、デリファスに売り上げの六割を依存していたってことなので大手というか小回りの効く中堅って感じなのかなぁ。物流界隈って本当に労働集約的だしスタッフもデジタルに強くないからいまだにFAXオーダー処理するの割とリアルだよな……って思いました。

・あとアンナチュラルismを感じたのは爆弾処理後のエレナと孔が二人で話すシーン。二話の「死にたがりの手紙」のミコトと六郎を思い出しました。温かい飲み物の湯気がきちんと演出されていて好きなシーンです。

・シークレットゲストには只々びっくりした!犯人役である仁村紗和さんといえば、同じくラストマイルを書いた「あなたのブツが、ここに」でヒロイン役でしたね。そして中村倫也はまさかの出演すぎた……!

・シークレットゲストの山崎と筧、エレナの共通点は「赤」だなぁと思います。これって物流を止めるアラートの赤でもあったのかも。一人は血を流し、一人は爆弾で火に包まれ、それでも止まらなかった。だけど真っ赤なコートを纏ったエレナが、止めませんよ、絶対、といいながらあの手この手で一時停止させた。そんな演出意図があったりするのかもね(深読み)

・アンナチュラルのオタクなので(省略)UDIラボと六郎、木林さんが出てくるシーンは本当に胸熱でした。い、生きてる……って思ったしなんというかそのままですごく安心した。中堂さんはオープンスペースで仮眠するようになって上手くクソって言えなくなってたし 笑 六郎テンパってんね〜って笑い飛ばすみこしょーは最高でしたね。念願だった歯のデータベースが導入されたのも本当に良かった……!中堂さんが筧のことを「見上げた根性だな」っていうの、ああいう復讐をやり遂げるためになりふり構わない女のこと嫌いじゃないだろうなと思ったし、それに対してミコトが「そんな根性なんていらないですよ」って言うのも良い。やっぱりアンナチュラルは死者の声を聞くドラマだと思うので、ラストマイルの中でもアンナチュラル節を感じられてじんとしてしまった。このシーンすごく好きです。

・MIUの面々もそのまんま生きててジーンとしてしまった。伊吹のきゅる!を翻訳して「女の匂い……きもいっすよねすみません」っていう志摩😂桔梗さんもずっと凛としていて美しかったし、勝俣が機捜に入ってたのが本当に嬉しいよね……!アンナチュラルが死者の声を聞くドラマであればMIUは未来に繋げるために間に合わせるドラマだからさっ……!陣馬さんが勝俣に積極的に報告させたり促したりしてるのめっちゃ良かった。

・ラストシーン手前に「プレゼントをあげるわ、爆弾はまだある」って言ったエレナのシーンもすごく好き。根本的な解決・予防策をしない限りずっと爆弾は生まれる可能性がある、というリスクがついて回るんですよね。もう一つエレナがデリファスにプレゼントしたのは160億円の損害。これって一時的な賃上げじゃなくて恒常的なものだろうし、APACの中で日本だけ上げると不公平感があるから多分他の地域も……ってなってくると思うんですよね。世界的なインフレなので。たぶん売上規模数兆円の会社なので全然吸収できちゃうんだろうけどさ、ずっとその金額がかさみ続けるのは結構つらい。佐野親子の息子が「1日たった数百円じゃん」って言っていたけれど、企業側からすると労働集約的な仕事の1番のリスクであり一番の武器だよなぁと思うなどしました。

・ラストシーンでヒノモトの洗濯機に爆弾を投げ込むシーン、伏線回収の美しさというよりは佐野(息子)がちゃんと真面目に人生を歩んできたご褒美のようなシーンなのかもなと思いました。人生何が起こってどう転ぶかわからない。リストラに遭って物流業界に足を踏み入れた佐野は回り道をしているようだけれど、人生に無駄なことなんて一つもない、と賞賛してるようなシーンだったなと。佐野親子の周りは、手作りのお弁当やミニバンに付けられたたくさんのお守りなど、なんというかきちんと「生活」を営んでる人たちなんだという演出がとても良かった。ラストマイルを繋いでいるのも結局はデジタルじゃなくて人なんだという強いメッセージを感じた。

・ラストマイルはコロナ禍を経て描かれた作品だなとひしひしと思いました。山崎が飛び降りたのは5年前なので2018年のコロナ前、その頃からECはあったしどんどん世の中が便利になることに過激化していて、「あなたのブツが、ここに」であったようにコロナ禍ではEC、宅配サービスの需要がグッと伸びましたよね。ボタンひとつポチッと打てば何かが早くて翌日には届く。食べ物だって宅配してもらえる豊かさの中で、私たちはその便利さを享受することに慣れてしまっていて、画面の向こう側に「人」がいることをどうしても忘れてしまっている時がある。ラストマイルを届けるドライバーはもちろん、倉庫のピッキングやコントロールをしているのだって「人」なのだということを改めて感じさせられる作品だったなぁと思います。作中では賃上げという一つの救いが描かれたけれど、現実世界では簡単にそうもいかない。かといって今の豊かさから逸脱するのってきっと無謀で、山崎のように一人で飛び込んでも、血を流してもベルトコンベアは止まらないんですよね。根本的な解決としてはやっぱり仕組みを変えるしかないわけで。倉庫の全自動化の話があるけど、いち早くオールオートのピッキングシステムと配送システム作ってくれ💢という冗談はさておき、What do you want? あなたは何がほしいの?という問いがものすごく刺さる作品でした。

・私が一番好きなシーンはラストシーンのエレナ。眠れなくなったエレナが「安眠羊枕」を自分の手で届けて、最後に気が抜けたようにパトカーの中で眠り込む。最高のシーンじゃないですか。また最高の野木作品のヒロインが誕生したなぁと思いました。エレナのこれからの人生に幸あれ、と願わずにはいられません。